「頼りになる大手のITベンダー(SIer)を選んだし、彼らはプロだから、もし我が社が間違った要望を出したら止めてくれるだろう」そう考えている経営者の皆さま、それは非常に危険な「買い手側の甘え」です。第1回、第2回と、ERP導入が失敗する「ユーザー企業側の原因」を見てきました。では、ユーザー企業が「今の業務に合わせてシステムを改造してくれ!」と暴走したとき、専門家であるITベンダーはなぜプロとして「それはやめるべきです、失敗しますよ」とブレーキを踏んでくれないのでしょうか?結論から言うと、日本のIT業界の構造上、ベンダーはユーザー企業に「NO」と言えない(むしろ、言わない方が儲かる)仕組みになっているからです。今回は、発注側からは見えにくい、日本のIT業界特有の「構造的な闇」と、それがERPを炎上させるメカニズムを暴きます。
1. 欧米と日本の決定的な違い:IT人材はどこにいるのか?
なぜ日本のITベンダーは「御用聞き」になってしまうのか。その根本的な原因は、日本と欧米における「IT人材の配置」の歪みにあります。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)などのデータによると、IT人材が「ユーザー企業(社内SEなど)」と「ベンダー企業(IT会社)」のどちらに所属しているかの割合は、日本と米国で真逆になっています。
- 米国: ユーザー企業に 約7割、ベンダー企業に約3割
- 日本: ユーザー企業に約3割、ベンダー企業に 約7割
欧米の企業は、自社でIT人材を直接雇用し、自社のビジネスに合わせてシステムを内製(自社開発)するのが主流です。ERPを入れる際も、社内の優秀なIT責任者が主導権を握り、パッケージの標準機能に合わせて業務を削ぎ落としていきます。
一方、日本企業はITを「コスト」と捉え、外注し続けてきました。その結果、社内にITが分かる人間がおらず、システム構築のすべてを外部のベンダーに依存する**「ベンダー丸投げ体質」**が完成してしまったのです。
2. ベンダーが「NO」と言えない3つの構造的理由
主導権を握っているはずのベンダーが、なぜユーザー企業の無理なカスタマイズ要望を止められないのか。そこには3つの理由があります。
① 「人月(にんげつ)ビジネス」という悪魔の料金体系
日本のIT業界の多くは、「エンジニア1人が1ヶ月動いたらいくら(〇十万円/人月)」という「人月単価」で計算されています。
つまり、ベンダーにとっては**「プロジェクトが長引き、カスタマイズ(追加開発)が増えれば増えるほど、投入する人員が増えて売上が上がる」**という構造になっています。プロとして「そんな改造はやめるべきです」と親切に止めるよりも、「分かりました、追加予算をいただければ作ります」と言った方が、彼らのビジネスとしては儲かってしまうのです。
② ゼネコン型の「多重下請け構造」
大手のITベンダー(元請け)が受注したプロジェクトは、2次請け、3次請け、4次請けへと下請けに出されます。実際に手を動かしているエンジニアは、はるか下請けの会社の社員です。
下請けのエンジニアたちは、「元請けから降りてきた仕様書通りにプログラムを書くこと」だけが仕事であり、ユーザー企業の経営がどうなるか、このカスタマイズが本当に正しいのかを考える立場にありません。意見を言う権利すらなく、ただ「言われた通りに作る」機械になってしまうのです。
③ クライアント(発注者)の「神様マインド」
日本企業は「お金を払っている側(発注者)が偉い」という意識が非常に強い傾向があります。ベンダーが良かれと思って「その業務プロセスは標準機能に合わせるべきです」と提案しても、ユーザー側の現場や役員が「金払ってるんだから言う通りに作れ」「できないなら別のベンダーに変えるぞ」と脅されれば、ベンダーとしては自社の売上を守るために「分かりました…」と従うしかありません。
3. ベンダーを「外注業者」ではなく「パートナー」にするために
要件定義(システムの設計図作り)の打ち合わせで、ベンダーの担当者がニコニコしながら「御社の業務に合わせますよ、何でも言ってくださいね」と言ってきたら、それは**「炎上へのカウントダウン」が始まったサインです。経営者が認識すべきなのは、「ベンダーはITのプロであるが、貴社のビジネスや経営戦略のプロではない」ということです。自社の業務のどこが強みで、どこを捨てるべきかは、ベンダーには絶対に分かりません。ベンダーに主導権を握らせず、かつ彼らの技術力を最大限に引き出すためには、ユーザー企業側が「自社の要件を100%言語化し、完璧に手綱を握り続けること」**が不可欠です。ベンダーにRFP(提案依頼書)を出す前の段階で、自社の課題とゴールが冷徹に可視化されていれば、ベンダーを「NOと言えない御用聞き」から「同じゴールを目指す本当のパートナー」へと変えることができるのです。
次回へのステップ:海外製パッケージが日本で「嫌われる」本当の理由
ユーザー企業、商慣習、ベンダーの3つの要素が噛み合わないまま、世界的な大企業が使っている「SAP」や「Oracle」などの超高額な海外製ERPパッケージを導入すると、現場はどうなるでしょうか。「画面が使いにくい!」「前のシステムの方が良かった!」という阿鼻叫喚の地獄絵図が待っています。次回は、【第4回:海外製パッケージ編】なぜSAPやOracleは日本企業の現場で『使えない』と嫌われるのか をお届けします。製品の思想と日本企業の価値観のデッドヒートを詳しく解説します。お楽しみに!
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